離婚は3組に1組ではないらしい
実家の押し入れを整理していて、古いフィルム写真の束が出てきたことがあります。冬の午後で、廊下に差す日が低く、埃がゆっくり光っていました。その中に一枚、妙な写真がありました。カメラの巻き上げに失敗したらしく、運動会の空と、正月の食卓が、同じ一枚に重なって焼き付いている。二重写し、と呼ぶのだそうです。別の日に撮られた二つの光景が、紙の上では、まるで同時に起きた出来事のように見える。
統計の世界にも、これとよく似た一枚があります。
「離婚は3組に1組」。巷でよく耳にする、あの数字です。
「3組に1組」、この言葉の出どころ
初出がどこなのか、はっきりした出どころは特定できません。ただ、この言い方が何を根拠にしているのかをたどっていくと、厚生労働省が毎年公表している二つの件数に行き着きます。その年に届け出られた婚姻の数と、その年に届け出られた離婚の数。この二つを割り算すると、たしかに「3組に1組」前後の比率が出てくるんです。
計算としては、正しいのです。数字そのものは、公的な統計そのままです。
それなのに、この割り算を手に取ってよく見ると、押し入れで見つけたあの一枚と同じことが起きています。どういうことか、実際の数字から順に開いていきます。
令和6年、婚姻48万5,092組・離婚18万5,904組
厚生労働省の人口動態統計(確定数)によれば、令和6年(2024年)の婚姻件数は48万5,092組。前年より1万351組増えました。同じ年の離婚件数は18万5,904組で、こちらは前年より2,090組の増加でした。
ここで、185,904を485,092で割ってみます。約38.3%。「3組に1組」どころか、4割近い数字が出てきました。
ただし正直に書いておくと、この割り算は厚労省の資料に載っている手法ではありません。公表された二つの実数から、記事の側で電卓を叩いただけの単純な除算です。そして通説の「3組に1組」も、おおむねこの種の割り算から生まれたと考えられています。
では、この38.3%の中身はどうなっているのか。2024年に離婚届を出した18万組あまりの中には、前の年に結婚したばかりの夫婦もいれば、30年前に式を挙げた夫婦もいます。
割り算にひそむ、ずれた分母と分子
分母に置かれているのは、2024年にこれから夫婦になった48万組。いわば、今年撮ったばかりの一枚の写真です。
一方、分子に置かれているのは、いろいろな年に結婚して、たまたま2024年に離婚届を出した18万組。こちらは、何十年ぶんもの別々の年に撮られた写真の寄せ集め。写っている人たちが、そもそも違うんです。
この二枚を一枚のフィルムに重ねて焼き付けたのが、38.3%という比率です。運動会の空と正月の食卓が同時に写っていたあの写真と、構造は同じ。別の時に撮られた別の集団が、一枚の上で「今年結婚した3組のうち1組は別れる」という一つの物語に見えている(書きながら、あの写真を捨てずに取っておいた自分を思い出しました。妙な一枚ほど、記憶に残るものですね。話を戻します)。
整理すると、こうなります。38.3%が測っているのは、その年の役所の窓口に届いた二種類の紙の枚数の比。今年結婚した人が、将来離婚する確率ではありません。
50歳時点、「離別」だった人の割合
では、実際のところ、どれくらいの人が離婚した状態にあるのか。先に数字を置きます。2020年の国勢調査をもとにした内閣府男女共同参画局の資料(令和4年3月)によれば、50歳時点で「離別」の状態にある人は、男性で6.0%、女性で10.5%でした。
38.3%と並べると、ずいぶん景色が変わります。
ただ、この数字にも読み方の注意書きが要ります。ここでの「離別」は、離婚したあと再婚していない人のこと。離婚を経験しても再婚した人は「有配偶」の側に数えられます。つまり6.0%や10.5%が測っているのは、「50歳時点で、未再婚のまま離別状態にある人の割合」だけです。全体の内訳を見ると、50歳の男性は未婚25.9%・有配偶67.6%・離別6.0%・死別0.5%。女性は未婚16.4%・有配偶71.7%・離別10.5%・死別1.4%です。
男女で離別の割合に4ポイント以上の差があるのはなぜか。気になるところですが、その理由は資料の外に置かれたままです。ここは空欄のまま置いておきます。
数字が測れていないもの
再婚した人は、「離別」の欄からは見えなくなります。一度の結婚が終わり、別の暮らしを組み直した人の歩みは、この断面図の外側に置かれています。
そしてもうひとつ。離婚という出来事がその人にとって何だったのか──長い息苦しさから出られた日だったのか、大切なものを失った日だったのか──は、どの統計にも載っていません。件数は、紙の枚数を数えているだけです。
割り算が見ているのは、紙の枚数の比、それだけ。
ちなみに、この数字たちが数十年の単位でどう動いてきたのかは、YouTubeの動画のほうで追いかけています。同じ統計でも、時間の軸を足すと別の表情を見せるので、そちらもいつか覗いてみてください。
それでも、確かめておきたい人へ
書きたかったのは、二重写しの一枚を、剥がして一枚ずつ眺めることだけです。剥がしてみれば、どちらもただの正確な記録です。2024年に48万組が結婚し、18万組が離婚した。50歳時点で未再婚のまま離別状態にある人は男性6.0%、女性10.5%。それぞれの写真は、それぞれの事実を写しています。重ねて焼いたときにだけ、そこにない物語が浮かび上がる。
ひとつだけ、持ち帰ってもらえるなら。割り算を見かけたら、分母と分子が同じ集団を写しているか、先に確かめる。
写真は、撮られた日付ごとに見る。それだけの習慣が、数字の物語からあなたを自由にします。
二枚の写真が剥がれない夜に
それでも、頭の中で重なった二枚がうまく剥がれず、結婚や離婚の数字が胸の奥に貼りついたままの夜も、たぶんあると思います。
こっそりカフェは、そんな気持ちを匿名で、無料で話せる場所です。(叱ったり、こうしなさいと導いたりするためではなく、)ただ、あなたの話を聞くために、学生の相談員がいます。すぐにお返事できないこともありますが、言葉にしてみたくなったときに、そっと開いてもらえたらと思います。うまくまとまっていなくても、「3組に1組という数字が、頭に焼き付いて離れない」だけでも大丈夫です。
もし、いますぐ誰かに助けてほしい、つらくて限界だ、というときは、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)など、すぐに話せる窓口も遠慮なく頼ってください。
出典: 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)を公表します」/内閣府男女共同参画局「結婚と家族をめぐる基礎データ」(令和4年3月2日資料1、元データ=総務省国勢調査)
対応する動画はこちらです。




