# 詐欺に遭った人ほど楽観的だったらしい
## 「一度で懲りる」は、本当でしょうか
「一度だまされた人は、もう同じ手には乗らない」。そう思われがちです。ただ、消費者庁が徳島県で行った調査からは、少し違う数字が見えてきます。
痛い目に遭えば、次からは用心深くなる。直感としては、いちばん自然な筋書きでしょう。では、実際に被害を経験した人の「自分は大丈夫」という感覚は、経験のない人と比べてどうなっていたのか。
その答えは、思っていたより単純ではありませんでした。
## 徳島県、406人への調査
2023年6月に消費者庁が公表した「特殊詐欺等の消費者被害における心理・行動特性」という調査があります。対象は徳島県内の一般消費者406名。これに加えて、実際に被害届を提出した43名と、途中で詐欺だと見抜いた「看破者」44名にも尋ねています。調査時期は2021年11月から2022年7月。
(看破者、という言葉をこの調査で初めて知りました。「見破った人」を役所の文書らしく固くしたような響きで、妙に頭に残ります。話を戻します)
測っているのは、楽観性バイアス——自分は他人より不幸な目に遭いにくい、と見積もる心の癖——の強さなど。なお、これは徳島県内に限った調査で、著者ら自身も全国にそのまま当てはまるとは述べていません。406名の一般調査に、当事者ふたつのグループを重ねた設計。ここまでが、この調査の枠組みです。
## 被害経験者の方が、楽観性バイアスが高い傾向でした
結論から書きます。過去5年以内に消費者被害の経験がある人は、経験のない人より、楽観性バイアスの合計得点が高い「傾向」にありました。
数字にすると、F(1,405)=2.75、p=.098、効果量はη²=.01。記号の意味はこのあと開くので、いったん通り過ぎてください。大事なのは、この差があくまで「傾向」止まりだという点で、著者自身も「高い傾向がみられた」という慎重な表現に留めています。
一度だまされたのだから、次は自分の見積もりに厳しくなっているはず。数字が指していたのは、その直感とは逆向きの気配でした。ここに、この調査のいちばんの引っかかりがあります。
## その「傾向」、もう少しだけ近づいて読む
p=.098という数字。研究の世界では、慣例として「偶然では説明しにくい」と言ってよいラインをp<.05に置くことが多く、.098はそこに届いていません。平たく言うと、仮に両グループの間にまったく差がなかったとしても、偶然のばらつきだけで今回くらいの差が出る確率が、およそ1割残っている。ゼロとは言えないけれど、言い切るには心もとない。そういう位置の数字です。
一方で、はっきり差が出た物差しもあります。「詐欺脆弱特性」——詐欺に遭いやすいとされる心理特性の尺度——は、被害届を提出した人の方が看破者より統計的に有意に高いという結果でした(F(1,85)=4.85, p=.030, η²=.06)。ところが同じ尺度を、被害経験者と未経験者で比べると、こちらは差が出ていません(F(1,405)=0.64, p=.425)。どの物差しで、誰と誰を比べるかによって、見える景色が入れ替わる。
p=.098の手応えをたとえるなら、コインを10回投げて表が7回出たとき。「このコイン、歪んでいるのでは」と疑いはじめるには十分で、断言するにはまだ回数が足りない、あのくらいの手応えです。
## 見抜いた人と、届け出た人の間にあった差
では、実際に被害届を出した人は、途中で見抜いた人より楽観的だったのか。ここは意外な結果で、両者の楽観性バイアスに統計的な有意差はありませんでした(F(1,84)=0.36, p=.551)。
「被害に遭って届け出るような人は、特別に楽観的な人だ」という図式は、この調査の数字からは支持されない、ということになります。見抜けた人と、乗ってしまった人。両者を分けたものが「自分だけは平気だと思う心の癖」だったとは、少なくともこのデータからは言えないわけです。
楽観性バイアスという考え方そのものが、心理学の研究の中でどう検証され直されてきたかについては、https://youtu.be/6mQedPkTNaE の動画で扱っています。記事とはまた別の切り口なので、気が向いたらのぞいてみてください。
## 傘を持たない理由は、人それぞれ違う
降水確率40%の朝を思い浮かべてください。予報は聞いた。それでも傘を置いて出る日があります。荷物を減らしたい日、すぐ帰るつもりの日、そして「自分が外にいる数時間だけは降らない気がする」日。確率は全員に同じ顔で告げられているのに、受け取り方は一人ずつ違う。楽観性バイアスと呼ばれているのは、この最後の感覚に近いものです。
今回の調査が匂わせているのは、一度濡れて帰った経験が、必ずしも次の朝の傘につながるとは限らない、という可能性でした。ただし著者らは、別の読み筋も残しています。被害届を提出した人の楽観性バイアスや自己効力感が看破者より高くなかった理由として、「被害届を提出した経験」そのものの影響——警察署で聴取を受けるという体験が、心理特性の答え方に影響した可能性です。これは検証された因果関係ではなく、著者の推測。それでも、「濡れたあとに何を経験したか」で心の側が変わりうる、という視点は覚えておきたいところです。
整理すると——被害経験者は楽観性バイアスが高い傾向にあった(ただし統計的に言い切れる水準ではない)。届出者と看破者の間に楽観性バイアスの差はなかった。著者は届出経験の影響という仮説を添えている。徳島県の、ひとつの調査から見えたのは、ここまでです。
## 濡れた日の翌朝も、傘は軽くならない
一度濡れたら、次からは必ず傘を持つ——人の心がそんな単純な仕組みで動いていないらしいことを、この調査の数字は控えめに教えてくれます。だからこそ、これは誰にでも起こりうる話なのだと思います。だまされた経験を「懲りていないからだ」と責める根拠は、この数字のどこにもありません。
濡れて帰った日の玄関で、傘立てをしばらく見つめてしまう。そのときの気持ちを、誰かに言葉にして預けたくなる瞬間があります。
こっそりカフェは、そんな気持ちを匿名で、無料で話せる場所です。叱ったり、こうしなさいと導いたりするためではなく、ただ、あなたの話を聞くために、学生の相談員がいます。すぐにお返事できないこともありますが、言葉にしてみたくなったときに、そっと開いてもらえたらと思います。うまくまとまっていなくても、「自分だけは降られないと思っていた」だけでも大丈夫です。
もし、いますぐ誰かに助けてほしい、つらくて限界だ、というときは、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)など、すぐに話せる窓口も遠慮なく頼ってください。
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こっそりカフェ編集部
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