初婚年齢の平均は多数派とズレてるらしい
半世紀、上がり続けてきた線
「いまの人は結婚が遅くなった」。よく聞く言い方です。テレビの特集でも、親戚の集まりでも、だいたいこの形で語られます。ここ数年で急に始まった変化のような顔をして。
ただ、厚生労働省の「人口動態統計」をさかのぼると、平均初婚年齢は1975年からほぼ一貫して上がり続けています。「最近」というより、半世紀近く続いてきた息の長い動きなんです。いま30歳前後の人が生まれるずっと前、その親の世代が結婚したころには、もう動き始めていた変化でした。
子どもの背丈を柱に刻む家がありますよね。年にいちど背中を当てて測り、鉛筆で線を引く。翌年は、その上にまた一本。平均初婚年齢の推移を並べると、ちょうどあの柱のように、線がほとんど毎年、上へ上へと増えていきます。半世紀分の線が並んだ柱を、想像してみてください。線と線の間隔は年によってまちまちで、ぐっと開いた年もあれば、前の線とほとんど重なる年もある。それでも下から順に眺めれば、向きはずっと同じ。いちばん下の線といちばん上の線のあいだには、数歳分の隙間が空いています。
(うちは柱に傷をつけると怒られる家だったので、壁にマスキングテープを貼っていました。冬の朝、暖房が入る前の廊下は冷たくて、つま先立ちでずるをした記憶があります。話を戻します。)
まずは、いちばん古い線から。
1975年、夫27.0歳・妻24.7歳でした
この統計によると、1975年の平均初婚年齢は夫27.0歳、妻24.7歳。
ここでいう平均初婚年齢は、その年に初めて結婚した人たちの年齢を全部足して、人数で割った値のことです。つまり「起きたことを数えて、ならした」記録で、何歳で結婚するのがよいかという評価の欄は、資料のどこを探してもありません。数えて、割った。線を引いた。それだけの数字です。早いほうがいいとも、遅くて困るとも、統計そのものは言っていない。この前提をさきに置いておくと、このあとの数字がずいぶん読みやすくなります。
その線は、時間とともに上がっていきます。2009年には夫30.4歳、妻28.6歳(同統計)。1975年に24.7歳だった妻の線は、この時点で28歳台。夫の線は30歳台に乗りました。さらに2022年には夫31.1歳、妻29.7歳(こども家庭庁資料、元データは同統計)。そして2024年の概数では夫31.1歳、妻29.8歳。概数というのは確定前の速報的な集計のことで、あとから確定値が出ると細かい数字が動くことがあります。この概数で見るかぎり、夫の線は前年と同じ高さにとどまり、妻の線はわずかに上がりました(厚生労働省「人口動態統計月報年計(概数)」)。
柱の前に立って、下から順に指でなぞってみます。夫は27.0、30.4、31.1、31.1。妻は24.7、28.6、29.7、29.8。約50年で、夫はおよそ4歳分、妻はおよそ5歳分。柱の線は、確かに高くなりました。一年ごとの変化は目を凝らさないと見えないくらい小さいのに、半世紀ぶんまとめて眺めると、はっきりと隙間がある。日々の変化には気づけないまま、あるとき隙間の大きさに驚く。背丈の線と似ているのは、そこなんだと思います。
ふたりの年の差は、縮まっています
同じ数字から、引き算だけで見えてくることがもうひとつあります。
1975年は、27.0から24.7を引いて、夫婦の初婚年齢の差は2.3歳。2009年は30.4から28.6を引いて1.8歳。2024年は31.1から29.8を引いて1.3歳。半世紀かけて、差はちょうど1歳分、縮まりました。
柱でいえば、夫の線と妻の線の間隔が、だんだん狭くなってきた恰好です。どちらの線も上がっているけれど、妻の線のほうが速く上がってきた。だから間隔が詰まる。並べ直すと、2.3歳、1.8歳、1.3歳。半世紀を三つの点で区切っただけでも、狭まっていく向きははっきり読み取れます。特別な資料も統計の外の知識もいらず、手元の引き算だけで確かめられる変化です。
では、なぜ縮まったのか。その理由について、人口動態統計は沈黙しています。この資料が引き受けているのは「その年に何が起きたか」を数えるところまでで、「なぜ起きたか」は守備範囲の外側。書かれていないことに、もっともらしい物語を足すのはやめておきます。数字の外側の話は、数字に語らせないほうがいいと思うので。
引き算から言えるのは、間隔が狭くなった、そこまでです。
婚姻件数の減少は、別の帳面
初婚年齢の話のそばに、よく並べて置かれる数字があります。婚姻件数です。こども家庭庁の資料(元データは人口動態統計)によると、2023年の婚姻件数は47万4,717組。前年の50万4,930組から、3万213組減りました。婚姻率は人口千対で3.9。人口千対というのは、人口1,000人あたり何組の結婚があったかという数え方で、人口の規模がちがう年どうしを比べやすくするための物差しです。こちらも前年の4.1から下がっています。ちなみに戦後もっとも多かったのは1972年の109万9,984組でした。半世紀ほど前の帳面には、いまとはずいぶんちがう数字が並んでいたわけです。件数は「組」で数え、率は「千人あたり」で数える。同じ出来事を二つの物差しで測っているから、この資料には両方の数字が並んで載っています。
ここで、混ぜないほうがいい区別をひとつ。初婚年齢は「結婚した人が何歳だったか」の記録、婚姻件数は「何組が結婚したか」の記録。つまり、柱の線の高さと、柱の前に立った人の数は、別々の帳面につけられています。件数が減ったから年齢が上がった、と一続きに読みたくなりますが、この二つは集計そのものが別で、片方の帳面をどれだけめくっても、もう片方の説明は出てきません。件数の帳面から年齢の帳面へ橋を渡す説明は、この資料の外側にあります。
高さの帳面と、人数の帳面。今日の話は、ずっと高さのほうでした。
ところで、この線は誰の背丈でしょう
最後に、宙に浮かせたままの問いをひとつ。
柱の線はふつう、誰かひとりの背中を当てて測ったものですよね。去年の線にも、その前の線にも、同じ子どもの背中がそこにあった。線の高さには、必ず持ち主がいる。いっぽう「平均」の線は、その年に結婚したおおぜいの年齢を足して割った、計算の上の高さです。足して割った結果なので、その高さにぴったり重なる人が実際にどれくらいいるのか。この一本の線は、そこまでは教えてくれません。
タイトルに「多数派とズレてるらしい」と書きました。では、どうズレているのか。柱のどのあたりに、いちばん多くの人が集まっているのか。それを確かめるには、平均とは別の数字を隣に並べる作業が要ります。今日の記事はその手前まで、平均という線がどう引かれ、半世紀でどう動いてきたかを歩いてきました。
YouTubeの動画では、この「平均」という言葉が具体的に何を指しているのかを、記事とは別の角度からほどいています。線の正体が気になったら、のぞいてみてください。
線から離れた場所で
柱の線と自分の現在地を見比べて、胸の奥がざわつく夜も、あるかもしれません。
こっそりカフェは、そんな気持ちを匿名で、無料で話せる場所です。叱ったり、こうしなさいと導いたりするためではなく、ただ、あなたの話を聞くために、学生の相談員がいます。すぐにお返事できないこともありますが、言葉にしてみたくなったときに、そっと開いてもらえたらと思います。うまくまとまっていなくても、「柱の線ばかり目に入って落ち着かない」だけでも大丈夫です。
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