転職したい人はこの10年で最多になったらしい
「そんなに嫌なら、転職すればいい」。よく言われる言葉です。ただ、実際に転職する人の数は、この十年、ほとんど動いていません。
「転職すればいい」、それはそのとおり
正論だと思います。合わない職場に居続けるより、環境を変えたほうが早い場面は確かにあるし、転職そのものも、ひと昔前に比べればずっと普通の選択肢になりました。求人サイトのCMは一年中流れていて、「まずは登録だけでも」と誘われます。転職エージェントに一度でも登録すれば、履歴書を整えるところまでは、思ったより簡単に進みます。
だから、この言葉を口にする人に悪気はないはずです。実際、データを見ても「転職したい」と考える人は年々増えています。それなら、口にする人と、実際に動く人の数は、同じように増えていってもよさそうなものです。
ただ、同じ調査の中に、もうひとつ別の数字があるんです。この二つを並べてみると、思っていたのと少し違う形をしていました。
330万人という数字
総務省の労働力調査(詳細集計)によると、2025年平均の転職者数は330万人。前年に比べて1万人の減少で、減るのは4年ぶりでした。内訳は男性156万人(前年比プラス2万人)、女性174万人(マイナス3万人)。
一年で330万人と聞くと、多い気もします。ここで少し時間をさかのぼってみると、2015年の転職者数は299万人。そこから311万、330万、353万と増えた年もあれば、290万まで下がった年もあり、この十年はおおむね290万〜353万人の範囲を行ったり来たりしてきました。景気や社会の状況で上下はするけれど、水準そのものは大きく変わっていない。冒頭の「ほとんど動いていない」は、この幅のことです。
増えているのは、別の数字でした
同じ調査には「転職等希望者数」という項目があります。いま働いている人のうち、今の仕事を辞めて別の仕事に変わりたい人と、今の仕事に加えて別の仕事もしたい人を合わせた数。つまり「変わりたい」と思っている人の頭数です。
2025年平均で1023万人。前年から23万人増えて、男性514万人(前年比プラス13万人)、女性509万人(プラス10万人)でした。転職者のほうは女性が減って男性が増えていたのに、希望者のほうは男女ともに増えている。ここだけ見ても、「変わりたい」と「変わった」は、別の理由で動いているように見えます。
窓口の前にできる行列を想像してみてください。窓口を通り抜けていく人は、一年に330万人前後。その一方で、窓口の前に並ぶ列は、後ろへ後ろへと伸び続けている。通る人数はほぼ同じなのに、列だけが長くなっていく光景です。窓口の処理速度はそのままで、並ぶ人だけが増え続けている、という言い換えもできそうです。
この十年、ほとんどの年で増え続けている
行列の伸び方を年ごとに見ると、こうなります。2015年に812万人だった転職等希望者数は、途中2016年(マイナス3万人)と2024年(マイナス7万人)の2回だけ小さく減りながらも、それ以外の年はすべて前年を上回り、2023年には1007万人と大台に乗りました。2025年の1023万人は、この十年で示された値の中でいちばん高い数字です(それより前との比較は資料に載っていないので、「過去最多」とまでは言いません)。
片や転職者数は、同じ十年をかけて299万人から330万人。行列は200万人以上長くなったのに、窓口を通る人数のほうは、ほぼ同じ幅の中で上下してきました。
途中には減った年もあります。2016年と2024年、行列がわずかに短くなった年が2回だけありました。ただ、どちらも数万人単位の小さな戻りで、翌年にはまた前の水準を超えています。全体としては、右肩上がりという言い方がそう間違っていない十年です。
なぜ列だけが伸びるのか。調べても、答えらしいものには行き当たりませんでした。分かっているのは「思う人が増え、動く人は横ばい」という事実までで、そこから先は資料の外側です。理由を当てにいくよりも、まずはこの二つの数字がそれぞれ別の動きをしている、という事実だけを、いったんそのまま受け取っておきたいところです。
(書きながら、自分が昔登録した求人サイトを何年も放置していることを思い出しました。列に並んだまま、順番が近づいてもスマホを眺めている一人です。話を戻します。)
なお、YouTubeの動画(https://youtu.be/ePh038bmoDU)では、この記事とは別の資料を使って、実際に転職した人の賃金がその後どう変わったのかというデータを扱っています。「動いた側」に何が起きたのかが気になる方は、そちらもどうぞ。
「転職したい」と「転職する」の間にあるもの
1023万人と330万人。机の上で引き算をすれば、およそ693万人が「変わりたいと思いながら、この一年は動かなかった人」という計算になります。
ただ、この差を「勇気がないから」と読むのは、たぶん雑すぎます。転職等希望者には「今の仕事に加えて別の仕事もしたい」人も含まれているので、全員が今の職場を出たいわけではない。副業として何か始めたいだけの人と、いまの職場を辞めたい人が、同じ数字の中に混ざっています。さらに言えば、希望してから実際に動くまで、何年もかける人だっているはずです。列に並んでいる時間は、無駄な待ち時間とは限らず、条件を見比べたり、貯金をしたり、気持ちの整理をしたりする時間でもあります。
一年で動く人が330万人前後というのは、逆から見れば、毎年これだけの人数が実際に一歩を踏み出しているということでもあります。列は長くても、窓口が閉まっているわけではありません。
それでも、はっきり言えることがひとつあります。「転職したい」と思うことと、実際に転職することは、同じ調査の中でも別々の動き方をする、別の数字だということ。片方が伸びているからといって、もう片方も同じ速さで伸びなければおかしい、という理屈はどこにもありません。
だから、「そんなに嫌なら転職すればいい」と言われて動けずにいるとしても、その状態は統計の上ではむしろ多数派です。窓口を通った330万人の後ろに、693万人分の列が続いている。列の途中で立ち止まっている場所には、想像していた以上の人数が、同じように立ち止まっています。
まだ、ここにいる人へ
列に並んだまま考え込む時間の中で、言葉にしたくなる何かが溜まっていくこともあると思います。
こっそりカフェは、そんな気持ちを匿名で、無料で話せる場所です。(叱ったり、こうしなさいと導いたりするためではなく、)ただ、あなたの話を聞くために、学生の相談員がいます。すぐにお返事できないこともありますが、言葉にしてみたくなったときに、そっと開いてもらえたらと思います。うまくまとまっていなくても、「転職したい気持ちだけが膨らんで、動けずにいます」だけでも大丈夫です。
もし、いますぐ誰かに助けてほしい、つらくて限界だ、というときは、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)など、すぐに話せる窓口も遠慮なく頼ってください。
出典:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果の要約」 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/youyaku.pdf




