恋人がいない人はこの10年で増えているらしい
72.2%。18歳から34歳の未婚男性のうち、いま交際している相手がいない人の割合です。女性は64.2%。この数字、2010年の調査ではもう少し低いものでした。
一晩でどっと降る大雪なら、誰でも気づきます。窓を開けた瞬間に景色が変わっているから。いっぽうで、10年かけて積もっていく雪は、降っている実感のないまま、ふと見たら膝の高さまで来ている。今日は、そういう種類の数字の話です。
72.2%という数字
先に、この数字の素性をはっきりさせておきます。出どころは、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」。結婚と出産について全国規模で行われている調査で、対象は全国の18〜34歳の未婚者です。無作為に選ばれた調査区に住む人たちが回答しています。72.2%という値は、2021年の第16回調査(コロナ禍で1年延期して実施されたもの)から来ています。
つまり72.2%とは、「18〜34歳の未婚男性のうち、『交際している異性はいない』と答えた人の割合」。分母はあくまで、この年齢の、結婚していない人たちです。既婚者や35歳以上の人は、そもそも数に入っていません。
たとえば、20歳の大学生も、働き始めて数年目の26歳も、34歳で独身の人も、この分母の中にいます。逆に、同じ34歳でも結婚していれば、この数字とは無関係。そういう線の引き方をした上での、72.2%なんです。
10年前は、もう少し低い数字でした
同じ質問は、過去の調査でも聞かれています。2010年の第14回調査では、男性61.4%、女性49.5%。2015年の第15回では、男性69.8%、女性59.1%。そして2021年、男性72.2%、女性64.2%。
3回の調査で、3回とも上がっています。男性は11年で約11ポイント、女性は約15ポイント。どこかの回で急に跳ね上がったのではなく、一段ずつ、確かめるように上がってきた形でした。
雪は、降り続いているわけです。
(子どものころ、雪の多い土地の親戚の家で、朝いちばんに窓の下の雪の高さを見るのが好きでした。夜のあいだ、音もなく増えている、あの感じにどこか似ています。話を戻します。)
調査の規模にも触れておくと、2015年の第15回は有効票8,752人、有効回収率76.5%。数千人規模で、同じ枠組みの質問を時期を変えて重ねた結果が、この3点の推移です。まとめると——18〜34歳の未婚者のうち「交際している異性はいない」人の割合は、男女とも、2010年から2021年にかけて増え続けている。ここまでが、資料から読み取れる事実です。
増えているのは、男性だけではありません
女性は49.5%から64.2%へ。増え幅で見れば約15ポイントで、男性の約11ポイントより大きい動きです。この手の話題は男性を主語に語られる場面をよく見かけますが、数字の上では、男女が同じ向きに、並んで動いてきました。
同じ調査を、もう一つ違う数字から読み直したのが、YouTubeの動画(https://youtu.be/zIoVkoL5xG0)です。数字の並びを声で聞くと、また違った印象があるはずです。
たとえば10人の未婚女性を思い浮かべると、2010年は、交際相手がいない人はそのうち5人ほどの計算でした。2021年は、6人あまり。
「交際を望まない」という、別の数字
ここで、ひとつ留保を挟みます。同じ2021年の調査の公式ページには、「未婚者の3人に1人は交際を望まず」という記述があります。これは交際相手がいない人に限った内訳ではなく、未婚者全体を見たときに、そもそも交際を望んでいない人がおよそ3人に1人はいる、という話です。
この一行があるだけで、数字の読み方は変わってきます。「交際相手がいない人が増えた」と「恋愛を諦めた人が増えた」は、別の話だからです。相手を望んでいるのにいない人もいれば、いまは望んでいないという人もいる。72.2%という一つの数字の中に、その両方が混ざって積もっています。
整理すると、こうなります。増えたのは「交際相手がいない人」の割合であって、「恋愛を諦めた人」が増えたとまでは、この資料からは言えません。
それでも、数字だけでは分からないこと
先に結論を置きます。この数字が教えてくれるのは「割合が増えた」というところまで。「なぜ増えたのか」と「一人ひとりがどう感じているのか」は、この数字の外側にあります。
まず理由について。この資料は経年比較の記述統計、平たく言えば「何年に何%だったか」を並べたものです。増えた理由の分析は、この資料には載っていません。載っていない、で止めると不親切なので、もう一歩開いておくと——ここで分かっているのは「同じ年齢層の未婚者に、時期を変えて3回同じことを聞いたら、『いない』と答える人の割合が3回とも上がっていた」という、数字の動きそのものです。忙しいから、恋愛にお金がかかるから、といった説明をここに足したくなるところですが、それは資料の外側の話。足した瞬間、事実に推測が混ざります。
次に、分母の性質。この調査の対象は未婚者に限られるので、交際を経て結婚した人は、その時点で分母から抜けていきます。また、質問は「交際している異性」について聞く形なので、この定義に当てはまらない関係は、数字の上では「いない」側に数えられる。同じ72.2%でも、中身は一枚岩ではないんです。
そして、感じ方。交際相手がいない状態を気に病む人もいれば、その状態を特に問題と感じていないという人もいます。数字は割合を教えてくれますが、一人ひとりの温度までは写しません。
もうひとつ、時間の向きについても触れておきます。72.2%や64.2%は、あくまで2021年という一時点で切り取った割合です。この先、次の調査でこの数字がどちらに動くのかは、今の資料だけでは分かりません。上がり続けるのか、どこかで頭打ちになるのか、それは次の調査を待って初めて分かることです。分かっているのは「ここまでの3回は上がってきた」というところまでで、その先の矢印を勝手に伸ばさないほうが、数字への向き合い方としては正直だと思います。
その先の時間を、どう過ごすか
積もった雪の高さは、測れば分かります。72.2%という高さも同じで、測った結果は事実として残る。でも、その雪の下で土がどうしているか、雪景色を誰がどんな顔で眺めているかまでは、積雪計には写りません。
数字が増えたことと、その数字の中にいる一人ひとりの時間の過ごし方は、別の問題です。交際相手がいない期間を、勉強にあてる人も、仕事にあてる人も、誰かを探すことにあてる人もいます。どれが正解かという順位づけは、この調査の守備範囲の外。
ひとつだけ確かなのは、いま72.2%の側にいるなら、それは18〜34歳の未婚男性の中では多数派だ、ということです。女性も64.2%で、やはり多数派。雪が積もるほどに、その雪の上に立っている人は増えている。
雪がやむのを待つ夜も、窓の外をひとりきりで眺め続けなくていいはずです。
72.2%という高さのことも、その下でどう過ごすかということも、ひとりで抱え続けなくていい場合があります。こっそりカフェは、そんな気持ちを匿名で、無料で話せる場所です。叱ったり、こうしなさいと導いたりするためではなく、ただ、あなたの話を聞くために、学生の相談員がいます。すぐにお返事できないこともありますが、言葉にしてみたくなったときに、そっと開いてもらえたらと思います。うまくまとまっていなくても、「恋人がいないことを、誰にも本音では話せていない」だけでも大丈夫です。




